寒牡丹も面白そう
一年に二度 咲かせよう
(暫定版)
2005年5月1日

プロログ
 今から2年前、2003年の10月に植え付けたわが家の寒牡丹『寒桜獅子』が今年、ふた冬を越して初めて開花しました(写真・左)。2年苗だというのに生育が悪く、昨年は冬、春、ともにつぼみが大きくならなかったので摘花してしまいました。そして今年、春になった今、やっと花開いたのです。
 寒牡丹には、普通の牡丹(以下『普通種』といいます)と違う面白い性質があります。例えば、多くの品種が年に二度咲く点です。その分、主人としてのこちらの対応に多少の戸惑いもあり、まだ、十分に観察し理解したわけではないので、ここではとりあえず、育て方に自信ができるまでの『暫定版』として、その違いについて紹介しておきましょう。
 なお、ここでお話ししていない事柄については、普通種の育て方を述べた1999年4月23日付け『誰でも楽しめる 百花の王・牡丹』を見てください。
 
寒牡丹って 何
 昔は『冬牡丹』といっていたように、真冬、『寒(かん)』のころに露地で、自然の状態で開花する牡丹です。フレームやビニールハウスで咲かせる、といったインチキではありません。昔は正月用の切り花として盛んに栽培され、松・竹・梅に添えて生け花に使われて『新春の花』として愛でられたようですが、樹勢が弱く、繁殖力が悪く、生産性が低いので、明治になるとキャベツの変種『葉ボタン』の普及によって、一時は『絶滅種』といっていい状態になったほどでした。今では消失した品種も多いのですが、一部の生産者が保存と生産に努めてくれたことによって、最近では人気を取り戻しつつあるのは嬉しいことです。
 何といっても、外国の菜っ葉(『ナッパ』って、このごろの若い人、分かる)が日本の牡丹に取って代わって『葉ボタン』などとのさばることには義憤(?)を感じるではありませんか。だって牡丹は、先の『誰でも楽しめる 百花の王・牡丹』でお話ししたように高貴な『富貴花』なのですから。キャベツなんかとは基本的に品性が違うのです。
 ま、それはともかく、普通種は秋に落葉すると地上部の活動を停止し、地温が低下する冬場には根の活動も鈍ってきて冬眠状態になりますが、寒牡丹はこのような品種とは気候的に逆で、気温が低く日照時間の短いころに花を開く変わり者です。そして更に、春先、他の普通種よりも早く花を咲かせる慌て者でもあります。例えば当家の場合、寒牡丹である『寒桜獅子』が4月17日に咲いたのに対し、普通種で一番に咲き出した『島錦』(『誰でも楽しめる 百花の王・牡丹』トップの写真)は25日の開花だったように、一週間から10日ほどは早いようです。また、11月下旬ころから年を越して2月近くまで次々と咲く『寒獅子』や『冬烏』のようなものもあるようです。
 これは、一種の突然変異と考えられていますが、中には完全に狂うことができなかった中間種もあり、冬は咲いたり咲かなかったり、気まぐれな品種もあるようですから、苗を選ぶときは、よく確かめてからにしましょう。
 なお、牡丹はいずれもそうですが、寒牡丹は特に高温に弱いようで、夏は日除けを工夫し、特に西日には気を付けましょう。また、このころは花芽が充実する時期ですから、乾燥させないよう、夕方には根元の土を冷やしてやる気持ちで水やりをしましょう。
 
育て方の違い
 10月が植え込みの適期であることは、普通種と同じです。
 ただし、剪定の方法は少し違うので気を付けましょう。すでに植え付けて育っている株の葉は、秋のこの時期、まだ緑色を残しているでしょう。寒牡丹の場合は、この葉を取り除きます。枯れ葉の場合は葉柄を下に折り下げれば付け根からポロリと落ちますが、緑の葉はそのようなことはないので、無理をせず、葉柄の部分で、葉を切り取るようにハサミを入れるのがいいでしょう。この『葉刈り』という作業で、花芽が急速に成長するはずです。
 ただし、この時期、花芽の見えない枝は冬に咲かないので、普通種と同じように、葉が自然に枯れるままに放置しておきます。
 そのほか大切なことは、普通種で行う秋の『芽掻き』は行いません。これをすると、折角の冬の花を見ることができないからです。今年伸びた枝の最上部にある太った芽が、その冬に咲くのです。
 11月になったら『霜よけ』をします。株の周囲の土に数本の棒をしっかりと差し込み、その先端を寄せて紐で縛ります。そしてそれに防寒材を巻き付けて棒に止めます。太陽が当たるように南側は開いておきます。ちょうど、雪国の子供たちが被る藁帽子のようになります。風に飛ばされると株を傷めますから、しっかりとした作業をすることが大切です。
 防寒材には、本来は稲わらを使うと風情があり、庭の風物詩としても美しいものですが(右の写真)、今の都市部では手に入るものでありませんから、園芸店などで黒の寒冷紗を買い、寒い地方では更に、その上をビニールで覆うと完璧です。しかし稲わらに比べれば、どうしても風情がありません。わたしの住む横浜では、残念ながら雪は降り積もりませんが、雪の積もった『霜よけ』の中で可憐に咲く姿は、何ともいじらしいではありませんか。
 こうはいっても、当家ではこれをしませんでした。だって、わが家の居間は、普通の日本家屋に倣って南側を向いているので、牡丹に帽子を被せると家の中からは花が見えません。『霜よけ』の南側を開いてあったとしても、それは道路に面しているので、花を楽しむのは通行人、ということになってしまうからです。当家の寒牡丹が冬に咲かないのは、そういうことでしょうか。
 12月は『寒(かん)』の時期に咲く寒牡丹の旬です。花芽は、その年の秋に伸びた枝の先端にあります。その年の春にできた枝からこの秋に伸びた枝にある上部の花芽から下の枝へ、順に咲いていきます。普通種では、各枝についた一株の花が一斉に開花しますが、寒牡丹はこの点が違います。花が終わったら、その枝を、その枝がついている基部(この春に伸びた枝)まで切り戻します。それから下には次の春に伸びる芽があるはずで、この芽から春の花が咲きますから、この芽は大切にしなければいけません。でも、もし、春に伸びた枝に膨らんでしっかりした芽がないときは、秋に伸びた枝の芽を残しましょう。花後、咲いた花の枝(この秋に伸びた枝)にも小さな芽ができて、放っておくと次の春に伸び出しますが、この春に伸びた枝についている芽よりも弱いので、この春に伸びた枝まで切り戻すのです。
 4月になると、前年の秋に伸びなかったこの芽から枝が出て、花を開きます。ただし、冬に開花させたい場合は、つぼみが1センチほどの大きさになったころ、摘み取ってしまうといいらしいのです。素人には、この決断が仲々つかないものなのですが。
 普通種は、木を疲れさせないために、5月下旬ころから6月半ばころ、花を切り取った枝の先端に近い芽を掻き取り、下の方の芽を残すようにしますが、冬に花を見たい寒牡丹では、この作業をしません。
 また、寒牡丹は株元から芽が出やすいので、必要以上に残さないよう、執念深く掻き取りましょう。もちろん、接ぎ木台であるシャクヤクから彦生えが出るようなことは、絶対に避けなければいけません。これは、植え付け方が浅かったためで、継ぎ目が隠れるまで土を盛ります。
 
エビログ
 寒牡丹の多くは花弁が単弁で、正月花に相応しく鄙(ひな)びた感じですが、最近は少しずつ品種改良が進んで、ページ・トップの写真にある『寒桜獅子』のように『重弁』で豪華な花様のものも出回っています。古い品種に、八重で桃色系の『寒桜』というのと、細い千重花弁の獅子咲きで紫紅色系の『寒獅子』というのがありますが、名前から推察して、わが家の『寒桜獅子』はその合いの子なのでしょうか。細くしっかり巻いた薄い花弁の切れ咲きは『寒獅子』の特徴を、そして花の色は『寒桜』の艶(あで)やかさを受け継いだのでしょう。親は両方とも矮性ですから、鉢植えの方が良かったのかもしれません。鉢植えなら、霜除けをしてやらなくても、適時、軒下などに退避して霜や雪や雨などを避けることが容易ですから。
 さて、ここでは、普通種との手入れの違いについてだけをお話ししました。それ以外については、先の『百花の王・ボタン』を参考にしてください。
 わたしの方が、もう少し寒牡丹の扱いに慣れてきて、うまい遣り方が見つかれば、そのときにこの『暫定版』を書き換えることにしましょう。
 では、寒牡丹も楽しんでください。

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